感染症BCPの作成、運用のポイント
感染症発生時の対応(感染拡大防止体制の確立)
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病床の確保
・病床の確保には、部屋の確保以外にも人材や清掃・廃棄物の処理も含まれる。入院患者の回転をよくするための出口戦略も必要
- 感染のフェーズと病院の役割に応じた病床確保数
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- ・感染症流行早期から患者を受け入れる病院なのか、ある程度、感染症が蔓延し、その感染症の特性がわかってきてから患者を受け入れるのか、病院が対応すべき時期についても検討しておくことが重要である。
- 必要となる医療人材の確保方法
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- ・病床には、通常の病床に加え、透析医療、精神医療(認知症を含む)、周産期医療、小児医療、外国人対応を考慮する必要がある。
- ・病院が保有する設備や、対応できる医療従事者数によって提供できる医療や患者の受け入れ人数が決定される。
- ・感染症への対応を考慮した人材育成に加え、必要時に招集して確保できる看護単位の確保が必要である。
- 入院した患者の転院先・退院先の確保
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- ・隔離期間を過ぎて入院を継続が必要な場合の、自施設の一般病床や多施設への転院先を確保する必要がある。
- ・一部の疾患では厚生労働省が出している
「病原体を保有していないことの確認方法について」
が参考になる
- 感染症患者を受け入れる部屋/病棟の清掃・廃棄物・リネンなどの業務
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- ・感染症が流行してから清掃、廃棄物、リネンのことを検討しても不首尾となることがおおい。平時から事前に協議し、契約内容に盛り込んでおくことが必要である。
特別な配慮を要する患者の対応
・感染症に罹患した、「特別な配慮を要する患者」を具体的に想定してBCPに記載する。具体的には妊婦や小児、緊急手術が必要な症例など。
- 想定される「特別な配慮を要する患者」を具体的に明記する
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- ・例として
妊婦、小児、緊急手術が必要な例、高度な免疫不全がある例、精神疾患患者、透析患者、外国人、他の感染症が合併した患者
などが考えられる
- ・例として
- 対応可能な病室を記載する
- 自施設で対応できない場合の対応を記載する
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- ・地域全体で必要な医療が受けられない患者を発生させないように行政、他医療機関と共同する。
職員の確保
・感染者や濃厚接触者となること等により職員の不足が見込まれる。勤務が可能な職員と休職が必要な職員の把握を行い、勤務調整を行う。不測の事態の場合は自治体へ相談した上で調整を行う。
- 院内での勤務調整方法
- 外部からの人員確保方法
- 外部からの応援を受け入れる体制づくり (受援計画)
- 委託業務について
業務内容の調整
・業務を重要度に応じて分類し、感染者・濃厚接触者の人数、出勤可能な職員数の動向等を踏まえ、提供可能なサービス、ケアの優先順位を検討し、業務の絞り込みや業務手順の変更を行う。
- 提供サービスの検討(継続、変更、縮小、中止)
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- ・有事に縮小、延期、もしくは中止する業務を事前に明確化しておく
- 例1)健康診断や緊急度の低い入院/検査/手術の延期、慢性疾患の外来受診の長期処方、病棟閉鎖などで人的資源を確保し、人手の足りない部署へ人員を配置する
- 例2)安定している患者の退院促進、バイタル測定回数を減らす
- ・病院の一般の医療(がん診療、救急医療、など)への影響が予想されるが、その影響を最低限にするための仕組みづくりが求められる
- ・有事に縮小、延期、もしくは中止する業務を事前に明確化しておく
防護具、消毒液等の確保
・平時の備えに加え、実際に感染症が流行すると、消費が増え、供給が減ることへの対応が必要となる。
- 個人防護具、消毒剤等の在庫量・保管場所を記載する。
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- ・個人防護具の不足は、職員の不安へもつながるため、充分な量を確保する。
- 想定される防護具、消毒液などの使用量を記載する
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- ・入院の患者数から今後の個人防護具や消毒等の必要量の見通しをたて、物品の確保を図る。
- 使用状況の把握と定期的な報告ができる体制を記載する
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- ・誰が、どの頻度で、誰に報告するかを記載する
- 防護具、消毒液などの調達先・調達方法を記載する
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- ・通常の調達先から確保できない場合に備え、複数の業者と連携しておく。
- ・自法人内で情報交換し、調達先・調達方法を検討する。
- 在庫減少時の対応を記載する
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- ・備蓄が減少した際の対応を、「備蓄がどこまで減ったら対応を開始するか」「誰が責任を持って対応するか」を明確化しておく。
- ・PPE払底時の対応は「感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識2022年版」
のp22-36の記載が参考になる。
情報共有
・時系列にまとめ、患者の状況を以下の関係者に報告共有する。この際、発信者(誰が)、対象(誰に)、発信の内容(どこまで伝えるか)を明確化して発信を行う。この際に個人情報には十分注意を払う。
- 病院内・法人内での情報共有
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- ・職員の不安解消のためにも、定期的にミーティングを開く等により、施設内・法人内で情報共有を行う。
- ・病院内での感染拡大を考慮し、社内イントラネット等の通信技術を活用し各自最新の情報を共有できるように努める。
- ・感染者が確認された施設の所属法人は、当該施設へ必要な指示指導の連携を図るよう努める。
- 患者・家族との情報共有
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- ・感染拡大防止のための病院の対応、患者や家族に協力をお願いすること(隔離対応、面会制限等)について説明する。
- ・家族に患者の様子をこまめに伝えるよう心がける。
- ・必要に応じて文書にて情報共有を行うことが望ましい。
- 自治体との情報共有
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- ・職員の不足、物資の不足、施設の今後の対応方針含め、早めの情報共有を行う。
- 関係業者等との情報共有
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- ・委託業者に状況を説明し、対応可能な範囲を確認する。
- ・職員負担軽減のためにも、保健所とも相談し、可能な限りの継続した対応を依頼する。同業者が対応困難な場合を想定し、あらかじめ他の専門業者を把握しておく。
- ・感染者や濃厚接触者となった職員の兼務先を把握している場合は、個人情報に留意しつつ必要に応じて情報共有を行う。
過重労働・メンタルヘルス対応
・感染者や濃厚接触者となることで人員不足が見込まれ、より優先度の高い業務にリソースを集中させる必要がある。
- 労務管理について
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- ・職員が感染症に罹患した、あるいは濃厚接触者となって欠勤する際の就業規則をあらかじめ確認しておく。
- ・職員の不足が見込まれる場合は、早めに応援職員の要請も検討し、可能な限り長時間労働を予防する。
- ・勤務可能な従業員の中で、休日や一部の従業員への業務過多のような、偏った勤務とならないように配慮を行う。
- ・施設の近隣において宿泊施設、宿泊場所の確保を考慮する。
- メンタルヘルス対策
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- ・高リスク者は以下のものが挙げられる。
- 1.管理者(病院長や対策本部長など)、感染管理部門をふくむ各部門長
- 2.感染病棟勤務者、救急部などの直接感染患者に対応するもの
- 3.勤務時間が長いもの、連続勤務時間が長いもの
- 4.背景として何らかの体調不良があるもの/就業制限があるもの
- 5.家族が死亡・入院などの措置が必要なもの
- ・病院内で精神科が存在しない場合は、精神科医療の専門家に相談できる体制を整えておく。
- ・メンタルヘルスの問題で休職をせざるをえない職員の定期的なフォローアップ体制を作る。
- ・産業医/健康管理スタッフが、精神面を含めた職員健康管理に関わるようにする。
- ・高リスク者は以下のものが挙げられる。
情報発信
・「情報共有」とは異なり主にマスコミ対応を念頭において記載している
- 情報発信のタイミング、範囲、内容、方法についての病院としての方針
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- ・情報発信についての意思決定フローを明確にしておく
- ・入院患者・家族・職員が、報道を見て初めてその事実を知ることがないように気をつける。発信すべき情報については遅滞なく発信し、真摯に対応する。
- 外部からの問い合わせ・取材などの対応者
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- ・事前に対応者を決めて窓口を統一する。
- ・複数名で対応にあたる場合も、対応者によって発信する情報が異ならないように留意する。
特別な状況としての管理体制
・ここでは主に院内感染発生時の対応と、複合災害(感染症と洪水など)への備えについて記載する
- 院内感染発生時の対応
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- ・感染症BCPで使用されるフェーズ(海外発生期、国内発生早期、蔓延期)とは別に、院内感染の状況を示す用語を定めておく。
- ・院内感染発生時はBCPの対策本部とは別に院内感染の対策部門を設置する。
- ・欠勤者が多数でる場合の対応を決めておく(「職員の確保」も参照のこと)。
- 複合災害に対する備え
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- 感染症の流行時に地震や洪水などの自然災害が発生する(複合災害)可能性があることを認識しておく。
- 入院中の感染症患者の避難経路、避難方法を感染対策に留意して検討する。
- 災害時に感染症患者の診療に必要な物品(PPEや薬剤など)が枯渇しないように備蓄を計算する(「4-3 物品の備蓄、調達、補充等」に記載する)
- 災害への対策自体については、災害のBCPを参照にする(無ければ別途作成する)。